待ち人、音信なし
所長に「行ってきます」と言い置き、ノアさんは部署を出る。私もその背中を追った。
受付のトリーが顔を上げる。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい。気をつけて」
ノアさんがエレベーターに乗っているのが見え、小走りで乗り込むと、ちょうど扉が閉まった。
地下の駐車場へ行き、社用車に乗る。
後部座席に鞄を放り込むノアさんが運転席へ乗るまでにナビをセットした。
「ノアさん、傘は」
「あ?」
「傘、持ってきてます? 屋外ですけど」
「持ってきてねえ」
その返事と共に車のエンジンがかかる。
いや、返答にはなっていない。