世界でいちばん 不本意な「好き」


「寮帰らないの?」


係りの時間がおわってふみとと学童を出た。反対方向に行こうとすると引き留められる。


「コンビニのバイト。新人さんが入ってるみたいで手がまわらないんだって」

「え、これから行くの?」

「そう。だから3時間くらいしか入れないんだけどね。少しでも稼ぎたいから」

「じゃあ帰り迎えに行くよ。どこのコンビニ?」


は、なんで。

そういう顔をしていたらしい。


「夜は危ないから。どうせ同じところに帰るんだし、俺もコーヒー買いたいし、行っていいだろ?」


時々する大人みたいな表情でこっちを見下ろして、迎えの理由を何かとつけてくる。


「今までひとりで歩いてたし…」

「それは今までの話。俺は今日の話をしてんの」


穏やかそうな顔をして、いつもけっこう強引だよなあ。


いっこうに引こうとしない。その間にも時間が過ぎていく。くだらないことで足止めを食らってる場合じゃないのに。


「…鈴丘交差点の少し先のコンビニ。21時に終わる」

「わかった。バイトがんばって」


徒歩15分の距離。大通りが続く道だから、ひとりだって大丈夫。

その意味を含んで場所を行ったつもりだったけど、久野ふみとには到底通じない。



「……ありがとう」


手を振られて、ほんとうに少しだけ、振り返す。

バイトがんばって、なんて言われたの、汐くんと別れて以来だ。

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