世界でいちばん 不本意な「好き」
「教室もどらないと、まずいとおもう」
「いや、音楽室着いたばっかじゃん」
「そうだけど、ふみとがいないとお店が繁盛しないでしょ」
我に返ると、だめだなって。
するとふみとがけろっとした顔で「ほなちゃんからなんとかするから良いよって連絡来たよ」と言った。
穂菜美ちゃん、逆に張り切ってるのかも。ありがたい。
「…ねえなんでふみとがおこってるの…?」
へんなの。
わたしの事情も、寧音との関係も、なにも話せていないから知らないはずなのに。
「無理やりやらせようとするのはちがうかなって思ったんだよ」
重たそうに口を開く。いつものふみとじゃないみたいで、その様子が少し新鮮に感じた。
ちょっとだけ、気が和らぐ。
べつのだれかが代わりにそう思ってくれるのって、なんでかな、ほっとしてしまう。
「まあ、あれは、わざとだろうね」
おせっかいというやつだ。
「アリスと佐原さんって高校からの友達じゃないんだよな。聞いてもいい?」
「…話したくない、な」
寧音のことを話すと、わたしのこともぜんぶ話さなくちゃならない。
自分でもあきれるくらい情けない話。
できることならわすれたいのに、きっと一生おぼえてる。
眉を下げてあからさまに残念そうな表情をするから、申し訳ないような気持ちになる。
「あの、べつに、もったいぶってるわけじゃなくて。あと、ふみとに言いたくないわけでもなくって。…おこってくれたのは、うれしかった。ありがとう」
言葉にしたら、引き戻されそう。
あのときの気持ちが蘇ってきて、また、おかしくなってしまいそう。