世界でいちばん 不本意な「好き」



「アリス、教科書わすれたから見して」


1時間目の授業から隣の異物に絡まれる。

調子にのらないでほしい。


「やだ」

「なんだよふみと、教科書わすれたのかよ。有栖川ー見せてやれー」


ああもう、励くん先生は久野ふみとに甘すぎると思う。

授業に来るたび心配げな視線を向けてるの、気づいてるんだからね。なんせ隣だもん。


返事をして、内心渋々、机と机をくっつけ真ん中に教科書を寝かせる。


「なんで持ってこないの?」

「そもそも英語あるってわすれてた」

「なんでわすれるの。ありえない」

「いやあ、学生ってたいへんだよね」


肩をすくめておどける仕草。反省のイロなし。


何もたいへんじゃないことをたいへんだと言う9歳年上の同級生とコソコソ話を繰り広げる。

もう話したくないのに文句が止まらないわたしとへっちゃらなこのひと。


このひと、どんなふうに生きてきたんだろう。

いや、興味はないけど、でもなんか気になる。だってわたしにとってはありえないことをするし、人の嫌がることもできちゃうし、かと言って気遣えないわけでもなさそうで…気になる。



「熱がこもった視線をかんじる」

「へっ、」

「どうした?」


いつの間にか、無駄にきれいな横顔の凹凸をなぞってしまっていた。


覗き込むような目と、なにかを探ってくるような声色。

目を合わせたら逃げられなくなる気がして英語ノートを顔面に押し付けてやった。

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