死なないあたしの恋物語
「洋人君、手をつないでくれる?」


石段までたどり着いたとき、あたしは右手を差し出した。


洋人君は当然のようにあたしの手を握り締めてくれる。


一瞬だけ、洋人君の顔が洋介君とだぶってみえた。


近親者なのだから似ていて当然だけど、洋介君には洋介君の、そして洋人君には洋人君のよさがある。


そして今あたしは、洋人君のことが好きなんだ。


太陽は徐々に傾き始めていて、2人の時間がもうすぐ終わってしまうことを告げていた。


「もう、消すのか?」


聞かれて、あたしはうなづいた。


「家に戻ってからじゃ決心がつかないかもしれないからね」


「そっか……」


洋人君は正面からあたしの顔を見つめた。


とても真剣に、そして真っ直ぐに。


あたしはちょっとくすぐったさを感じてうつむくけれど、洋人君が右手であたしのあごを引き上げた。


「ちゃんと見せて。心に刻んでおきたいんだから」


「うん……」


胸の奥に痛みが走る。


本当は記憶を消したくなんてない。


ずっとこのまま一緒にいたい。


そう願っている。


けれどそれは叶わない願い。
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