死なないあたしの恋物語
あの小説の主人公たちのように、あたしたちは身分違いの恋をしているんだ。


「じゃあ、またね」


「あぁ。また出会う日まで」


「さよなら、洋人君」


「さよなら、千奈」


あたしは洋人君の手を強く握り締めた。


そして目を閉じる。


みんなの記憶の中から、あたしを消してください――。


あの時どうしても願えなかったことを、心の中で強く願った。


「千奈っ!」


名前を呼ばれ、ハッと息を飲んで目を開ける。


洋人君の顔が目の前にあり、唇に柔らかな感触がぶつかった。


初めての感触に頭の中が真っ白になる。


今のは、キス……?


そう思った瞬間、あたしの頭の中でパチンッと何かがはじける音がした。


あ、今みんなの記憶が……。


洋人君から手が離された。


キョトンとしてあたしを見つめている。
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