死なないあたしの恋物語
一箇所だけ石段の幅が違う箇所があり、あたしはそこで足を踏み外してしまったのだ。


ズルリと足がすべり、体のバランスが崩れる。


落ちる! と思って目を閉じたとき、繋がれた手がきつく握り締められていた。


そしてそのままあたしの体は引き上げられて、バランスを戻した。


「大丈夫?」


相手があたしへ向けて心配そうな表情を浮かべている。


あたしは早鐘を打つ心臓に大きく息を吐き出し、それから「大丈夫だよ」と、答えた。


相手が少し首をかしげたおかげで、その顔が良く見えた。


瞬間、あっ。と口の中で呟く。


手をつないでいたその人は洋人君じゃなくて、洋介君。


ずっとずっとずーっと昔、何十年も前に好きになった人。


思い出した瞬間、これが夢であることに気がついてしまった。


洋介君は今何歳くらいになっているだろうか?


あたしはずっと13歳だけど、洋介君はそういうわけにはいかない。


まだ生きているのかどうかもわからない。


夢の中であたしと洋介君は1年間を一緒に過ごした。
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