【完】嘘から始まる初恋ウェディング
「じゃあ、私行くから。 あ、お兄ちゃんお小遣い頂戴よ」
「はぁ?!何で俺が、お前に」
「あんたは社会人、私は学生。 いいからお財布出して。ケチな男はモテないよ?」
半ば強引にジーンズのポケットに入れていた財布は奪われ、中に入っている一万円札が抜き取られる。 これはひったくりと同じだ。
少しも悪びれることなく「サンキュー」と言って、撫子は事務所を出ていく。 …クソガキがッ。
歳が離れているせいか、何故か強く言えない。 だけどこの歳の離れた妹と、少し変わった母親のせいで女に余計な幻想を抱かなくなった事だけは感謝したい。
「全く、てめぇも撫子にはいつまで経っても甘ぇんだからよぉ…」
「どこをどう見たら甘いっつーんだよ?!
今のはひったくりだぞ?! たっく…、どうやったらあんな女に育つんだか、親の顔が見て見てぇもんだ」
撫子の座っていたソファーに腰をおろすと、親父は口をへの字に曲げて素知らぬ振りをしてそっぽを向く。
…くっそ、あいつ一万も抜き取りやがって、俺を都合の良いATMとでも思ってるんじゃねぇのか?
煙草を取り出し火をつけると、親父は椅子をくるりと回しこちらへと向き直った。