俺が優しいと思うなよ?
しかし今回の都市開発で建設する教会には物足りない。敷地面積は十分にあるのだ。
「どうせ白い教会にするなら……」
と、新たなページに鉛筆を走らせる。白は清楚なイメージで嫌いではないが、全体にぼんやりしてしまうのでどこかに引き締める色が欲しいところだ。
両開きの扉が開き、礼拝堂に日光が注がれる開口を大きくした窓、神に婚姻の祈りを捧げる二人にステンドグラスに反射した淡い祝福の光が照らされる。
結婚の儀式の後は、
『これで私たちは夫婦になれたのね』
なんて言いながら、建物をぐるりと囲む白いテラスで愛しい人を見上げる。
『一生可愛がってやるから覚悟しろよ、聖』
と、熱い視線で見つめられて恥ずかしくなって俯いて「はい」と返事する。そんな甘い時間が真っ白なウェディングドレスとタキシードが次第に夕日に染められ、更に二人を甘く染めていく。
愛しい旦那様の顔はぼんやりとしているが、とろりと蜂蜜のような言葉をくれる。
『今夜はお前の心も体も俺の色に染め上げてやるよ』
と、腰に回された手に力が入って引き寄せられる。
嬉し恥ずかし幸せいっぱい、頭の中はお花畑の私は微笑んでもう一度愛しい旦那様を見上げた。
『もう逃がさねぇよ、聖……』
そこにあったのは、薄い唇が歪んでニヤリと笑う、呪縛のように私を苦しめるヴェール橘の西脇の顔だった。
『あっ……あ……きゃ……ぁ……』
幸せの絶頂から突如ショックと絶望と恐怖に落とされ、悲鳴を上げる声さえも掠れる。
満足そうに私を抱きしめる西脇から離れようとしても震えて力が入らない。
右手に持つブーケの赤い花びらが次々と舞落ちて、私の真っ白なドレスが赤く染っていく。
──やめてっ!お願い、近づかないでっ。
西脇の顔が近づく、私はただ首を左右に振るのが精一杯だった。
「……なみ。三波!」
「……っ」
気がつくと、私は大きく揺すられている。
「三波、しっかりしろ」
「あ、わたし……」
「目が覚めたか?随分うなされていたぞ」
視界がはっきりしてくると、成海さんが険しい顔で私を覗き込んでいる。彼に支えられながら起き上がり視線を落とすと、テーブルの上に描きかけのスケッチブックがあった。いつの間にか自分は絨毯の上で寝てしまっていたようだ。