俺が優しいと思うなよ?
成海さんはお風呂から上がったばかりなのか、髪はまだしっとりと濡れている。
「すみません、寝てしまって」
「疲れたんだろ?寝るのはいいが、ここじゃ風邪ひくぞ」
彼はそう言って、スケッチブックをぱたりと閉じた。見上げた彼は幼く見える。
随分、若い……?
涼しげな瞳がこちらを向いて、私は反射的に目を逸らす。
「私はどこでも寝れるので気にしないでください」
スーツでもワイシャツでもない、見慣れないTシャツ姿に私の目のやり場は床になった。
成海さんが今どんな顔をしているかなんて、分からない。
「仕事の話は明日だ。お前は俺の寝室使っていいから」
寝室、というワードに全身がビクリと反応する。
「私はソファで十分です!」
思わず声を上げてしまう私。成海さんはそんな私の腕を掴む。
「却下。俺が連れてきたのに、ソファで寝かせられるかよ」
「……ひゃっ」
背中へ一気に這い上がってくる、ゾクゾクとした悪寒に耐えられなくなり、成海さんの手を振り解いてしまった。
「……三波?」
さすがに彼も不審に思ったようだ。目を丸くして私を見つめている。
──成海さんは、決して、絶対に悪くない。
「ごめんなさい」
私は頭を下げた。
「決して成海さんが嫌いとか、そんなんじゃないんです。私……私に問題があって。お、男の人とそういう……ごめんなさい」
成海さんは泣きたい時に胸を貸してくれた。仕事も私に合わせてくれる。家に送ってくれたことも、ご飯だって作ってくれた。今もこうやって寝室だって提供しようとする。そんな優しい彼の手を避けてしまったことが、申し訳なくて頭が上げられない。
このまま私を突き放して家から追い出してくれた方が、どれだけ気が楽になるのか。
そう思っていると、
「わかった」
と成海さんの静かな声が聞こえて、リビングを出て行くドアの音がした。