俺が優しいと思うなよ?
確かに三月の夜はまだ寒い。暖房の効いたリビングでも、エアコンや床暖房を停止させれば途端に空気が冷えてくる。
あれから成海さんは自室に篭ったままのようだ。私は照明を消すとソファに寝転んで、丈の少し長めの裏起毛のパーカを被る。全身を覆うことは出来ないが、素足を隠せることはできるだけ良かったかもしれない。
そして何より、隙間風の入ってくる自分のアパートより断然室内があたたかい。
リビングを去る成海さんの後ろ姿を思い出す。
──やはり、機嫌を損ねてしまっただろうか。
真っ黒な、そこにあるはずの天井を眺める。
「はあぁぁ」
長い息を吐く。
トラウマ、なんだと自覚している。
普通に男性と接するくらいは大丈夫でも、相手から熱っぽく体を触れられたり、それ以上に体の関係を求められることが怖い。だから会社で仁科係長に手を重ねられた時は本当にビックリした。後で他意がないことがわかっても、あの時から恐怖心が拭えないでいる。
それもこれも、全てあの男が原因なのだ。
成海さんは善意で寝室を提供していたことはわかっている。
でも、どうしても気持ちが追いつかないのだ。
──成海さんは、私を求めているわけじゃない。
成海さんはモテるのだ。私に触れる必要はないんだ。
──私は、穢れている。
成海さんに、知られたくない。