俺が優しいと思うなよ?
マイクを片手にスピーチをする、大政建設社長成海義治。私の父と同世代くらいだろう、しっかりセットされた髪型と黒のタキシード姿は完璧に紳士であり気品あふれるセレブだ。流暢に紡ぐ言葉はどこか成海さんの声に似ている。
しかしこの会場をピリピリと電気が走るような空気に包み込むのは彼の威厳なのか、覇気なのか。世界を相手にビジネスをするスーパーゼネコンのトップであるべき姿に、私は体が押し潰されそうな感覚に足を一歩引いた。
成海さんも成海家の家族なのにこちら側にいていいのだろうか、と隣に立つ彼を見上げた。それに気がついて切れ長の瞳が私へ降りてくる。
「俺は大政建設の社員じゃないから」
と、小さく口角を上げた。
談笑タイムになると話し声が一斉に聞こえ、カルテットの静かな演奏が始まった。
同時にすぐ横で成海さんが華やかな女性たちに囲まれた。
「成海専務の弟さんですよね?」
「一緒にお話しませんか?」
など、瞬く間に色恋覗く甘い声が押し寄せて、私はあっという間に蚊帳の外へ押し出されてしまった。女性たちに囲まれてしたった成海さんは困り顔ではあるが「大政建設の社員の方ですか」とやんわりと対応している。
──成海さんに近づくのは無理そうだな。
私はくるりと向きを変えて、我が社のボスと合流しようと歩き出した。しかしまるでどこかの街の人口の数百人が丸ごとこの会場に移動したくらい、どこを見ても人だらけだ。その中で自分の社長を探すのは容易ではなかった。
人に酔ったのか、少し気分が悪くなった。立食パーティー形式の会場の奥の一角に、ホテルのシェフが腕を振るっている高級料理が並んでいた。
──ローストビーフ、食べたいのに。
大きな口を開けて美味しそうにローストビーフを食べる男性を横目に、私は会場の扉を開けた。