俺が優しいと思うなよ?

楓はクスリと笑う。
「最近お父さんが「結婚しろ」ってうるさいのよ。この前なんて男性のお見合い写真を五冊も持って帰ってきたんだから」
「……そう」
「どの男性もステキだと思ったけど、でもねぇ」
と、彼女は少し困った顔で上目遣いに私を見る。

「お父さんは気にしなくていいと言うんだけど、私がお姉ちゃんより先に結婚を決めちゃったらお姉ちゃんが可哀想かなって思ったの」
「え?」
今までおねだり上手の楓が何でも欲しいものを手に入れても私に「可哀想」なんてことを言ったことなんてなかったのに。
楓の思ったことや生き方に特に口を出したことがなかった私は、思わず声を出してしまった。
楓は大きな瞳を向けて、口角を上げた。

「だって、お姉ちゃんの男の話なんて今までなかったじゃない?だからお姉ちゃんが今だに処じ……」
「楓!」
私は慌ててその口を止めようとした。


「三波さん、こんなところにいたの?」

聞き覚えのある声に私も、そして楓も振り向く。
光沢のあるグレーのスーツをスラリと着こなした我社の響社長がワイングラスを片手にこっちに歩いてくる。その穏やかそうな微笑みに、私はホッと息をついた。
「社長」
私は響社長と視線を合わせる。彼は楓へチラッと視線を動かして話しかけてきた。
「成海くんと一緒じゃないの?それとも既に大政建設社長に挨拶を済ませたのかな?」
「い、いえ……なんと言いますか、成海さんに近づけない状況でして。まだご挨拶は出来ていないんです」
と少し困ったように答えた。
と、楓がスッと私の横に並んで響社長と向き合った。彼女は物怖じしない笑みを浮かべて、私の腕を肘で小突いた。どうやら「社長」という言葉が聞こえたのかもしれない。
「あ、あの社長。彼女は妹の楓です」
響社長も視線を向けていたことだし、楓も「紹介しなさいよ」とばかりに私の隣で姿勢よく社交スマイルを浮かべていたので、こう言うしかなかった。

楓は美しい顔を綻ばせる。
「はじめまして、三波楓です。姉がいつもお世話になっております」
と、恭しく頭を下げる。
響社長もニッコリと笑って挨拶をした。
「これはご丁寧に、響です。聖さんは即戦力として頑張ってますよ」
と、実際と全く反対の言葉を並べた。

――即戦力どころかアドバイスをもらってもデザイン一枚も描けてないのに。

二人が向き合って微笑み返している横で、私はどんよりと項垂れていた。

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