俺が優しいと思うなよ?
響社長はインテリな雰囲気だけど嫌味のない英国紳士のようなイケメンだ。社内でも人気があると聞いているだけに、楓も当然のように高身長の彼を目の前に頬を染め上げてうっとりと見つめていた。
しかし響社長は楓に愛想良く挨拶を済ませると、「三波さん」と私へ顔を向けた。
「大政建設の社長に挨拶がまだなら急いだ方がいい。成海くんを呼ぶから待ってて」
と、スマホを手にした。
楓の視線は響社長にロックオンしているようだ。
「お姉ちゃんとこの社長さんって素敵な人ね。何歳なの?彼女いるの?」
と、興味津々にやってくる彼女に、私はやれやれとため息を吐いた。
「社長を変な目で見ないで。年齢も知らないし、彼女がいるかどうかも知らないわよ」
「あっそ。でも、あんなイケメンがお姉ちゃんを射止めることはないわね。お姉ちゃんは全体的に地味だし、男が食いつくといえばその大きな胸くらいでしょ?今どき胸くらいで落ちる男なんていないわよ」
と、悪びれることなく人のコンプレックスを言われて、さすがに私は慌てた。
「ちょっと!こんなところで変なこと言わないでよっ」
遠慮のない相手なだけに、私の声も無意識に大きくなってしまった。
「三波、やっと見つけた」
少し焦ったような表情でやって来た成海さんを見上げる。きっと響社長からの連絡で彼女たちから抜け出せたのだろう、と思うと可笑しくなってフフッと笑ってしまう。
成海さんは笑った私にムッと顔が歪んだ。
「なに笑ってんだ。離れるならひとこと言ってくれよ」
「美人な女性たちに囲まれた成海さんに声なんてかけれません。彼女たちに睨まれたくないですから」
そう言ったところで、私の体はドンッと横へ押し出された。
「?!」
見ると、楓が苺のように顔を真っ赤に染めて成海さんの正面ポジションで彼を見上げている。
「姉の同僚の方ですか。はじめまして、私は姉の妹の三波楓と申します。姉がいつもお世話になって……」
と、一オクターブ上の可愛らしい甘い声で話しかけた。
しかし。
「ああ、こんばんは」
成海さんは低音ボイスでそれだけ言って、楓へ視線を向けることなく私の腕を掴んできた。
「三波、五分後にはピアノ演奏が始まる。親父に会うなら今しかない」
と、そのまま私を引っ張って歩き出した。
後ろをちらっと振り返る。機嫌良さそうに私たちに軽く手を上げて歩いていく響社長と、面白くなさそうに私たちを睨む楓の顔が見えた。