俺が優しいと思うなよ?

成海さんに連れられて、グランドピアノの人の輪へ近づく。
彼に軽く抱き寄せられる腰の手が気になる中、優雅にピアノを弾くその人を見て「えっ」と小さく声を上げた。
綺麗に結い上げられた髪に金色の髪飾りが光り、パールゴールドのオフショルダーのドレスは後ろに大きなリボンがついている。スラリと体の細い彼女によく似合っていた。

──やっぱり、あの人だよね?

見覚えのある姿に、そっと成海さんを見上げる。彼も気づいて小さく頷いてくれた。
「詩織だ」
そう答えた彼から、私は再びライトを浴びる二条詩織さんを見つめる。
成海さんの婚約者だと勘違いしてしまったが、夢も恋も真っ直ぐに進む詩織さんの姿勢は、私からは眩しく見えた。


ピアノ演奏が終わり、会場はビンゴゲームで盛り上がり始めた。
会場の受付で招待状と交換されたビンゴカードによって豪華景品が当たるというもので、一番にビンゴを当てた人には高級旅館の宿泊券が贈呈された。
私は成海さんのゲストなのでビンゴカードはなかったが、賞品のひょっとこのお面でウケを狙う人や初老のオジサマが恥ずかしそうに可愛いクマのぬいぐるみを抱く姿を楽しく眺めることができた。


「大政建設の成海総吾です。本日はお忙しい中、大政建設創立六十周年記念パーティーへお越し頂き、誠にありがとうございます……」
パーティーの締め括りの挨拶は成海さんのお兄さんだという。いつかはこの会社のトップに立つ人になるだろうが、先程お会いした成海義治氏から感じる威厳はまだなく、彼は優しい顔立ちの上品さのある好青年という雰囲気があった。

もうすぐパーティーもお開きになる。その前にお手洗いに寄って、ホールで成海さんを待とうと思った。
隣に立つ成海さんのスーツの袖を軽く引っ張る。
「お手洗いに行ってきます。ホールで待っています」
と小声で伝えると、彼は「わかった」と頷いてくれた。

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