俺が優しいと思うなよ?
詩織さんはクスッと笑う。
「私、もう一度柊吾に振り向いてもらうように、これから彼を誘うの。あなたが柊吾の周りをウロウロされると落ち着かないわ。悪いけど、あなたはこのまま帰ってくださる?」
「でも……」
成海さんとはホールで待つことになっている。
「ああ、柊吾には先に帰ったと言っておくわ。心配しないで」
詩織さんは私に帰宅という選択肢しか与えてくれなかった。
楓といい、詩織さんといい、美人がマウントを取る姿は迫力があるものだ、と思いながら強く言い返せない自分が情けなく思ってしまう。
成海さんと詩織さんが並んで微笑ましい二人を頭に思い浮かべる。
お似合いの二人だ。元カノの詩織さんが成海さんに甘えれば、成海さんもその気になる可能性だってある。
「……」
今朝、自分が成海さんの横で眠っていたことを思い出す。たったそれだけのことなのに、彼に甘えられた感覚でいたのだ。
──そうだ。私は許されないのだ。
現実のことと自分の心の中のズレが、私の胸を強く締めつけた。
──……成海さん。
「わかり、ました」
この言葉が聞こえたのか、詩織さんの機嫌のよさそうな微笑みが視界に入った。