俺が優しいと思うなよ?


時間に押し流されるように、仕事に追われて月日が過ぎていく。一つ終わればまた一つ増えていく仕事のループから抜け出せない自分は、いつの間にか役職も変わっていった。


駅前の都市開発事業という、大きな開拓工事を大政建設がメインになり工事後始まることになった。企業ビル、ホテル、商業施設、マンション、公園、教会などが「駅裏」と呼ばれた昭和の空気が残っていた商店街跡地に建設が決まったのだ。
昭和の風情がまた一つ消えていくのは寂しいものだが、新たな時代へ生まれ変わっていく楽しみという希望もあった。

そして、再び思い出す彼女の顔。



「響さん。駅裏の都市開発事業、どうしても三波聖が欲しいです」
その進言に、彼は困った顔をした。
「君の推しの彼女のことだけど、前にヴェール橘の女の子に話を聞いたことがあったんだよ」
意外なその言葉に、俺は「は?」と声が出る。
「あれだけ待ち伏せして捕まらなかったのに」と愚痴る俺に、響さんは苦笑して話す。
「設計部という部門に建築デザイナーは属しているそうだけど、社畜と言われるくらいの会社に泊まり込むのが当たり前の激務だそうだ。それで辞めていく社員も少なくないらしい。先日も設計部の何人かが退職したそうだ。もしかしたら三波さんも……」
「三波聖はヴェール橘を辞めているかもしれない……」
認めたくない言葉だが、有り得ない話ではない。

あの市営図書館の件から、気づけば三年が経とうとしている。
しかし、どうしても諦めきれない。
事ある毎に膨らんでいく、手を伸ばしたい三波聖の才能。

あの「才能」が、どうしても欲しい。

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