俺が優しいと思うなよ?


しかしある日、三波聖の情報が思わぬところから出てきたのだ。

大政建設から都市開発の敷地の件で図面の変更があると連絡があった。
俺は響さんと一緒に大政建設の本社に向かった。


「やあ、柊吾くん。久しぶりだね、元気だったかい?」
通された部屋で俺たちを迎えたのは、親父の右腕と言われ家族ぐるみで付き合いのある中村さんだった。
親父曰く、「彼は俺の親友だ」と言うほど仲が良いらしい。中村さんのご子息もこの大政建設の支店で働いていると聞いたことがあった。
中村さんは落ち着いた色のスーツ姿だが生地の素材が良いことも、手入れをして整えた黒髪もネクタイのセンスにも気を使っていることがわかる、見習いたい紳士だ。
俺は丁寧に頭を下げた。
「中村さん、ご無沙汰しています。俺は相変わらずですよ」
そう言って握手をして挨拶を交し、そして我が社長の響さんを紹介した。

和んだ空気で打ち合わせが進んでいく。
中村さんは次の予定の時間が迫っているらしく、
「こんなことなら、もっとゆっくりと時間を取ればよかった」
と名残惜しそうに目尻のシワを深くした。
俺はニッと笑った。
「今度お会いする時は大政建設の希望する教会のデザインを少しでも探ってみないといけないですね」
中村さんは笑って「スパイか忍者にでもなるのかい?」と、俺を子供扱いした。
すると、中村さんは何かを思い出したように「そうそう、デザインといえば」と表情を変える。予定の時間は押していたが、俺たちはその場内の内容にすぐに引き込まれた。

一瞬で気持ちが焦りだし、ガタンッと大きく椅子の音を立てて俺は立ち上がった。

──なんてことだ。

おかっぱ頭の三波聖の顔が浮かぶ。

「中村さん、俺、行かなきゃ」
話し終えた中村さんは俺の行動に些か驚きながら「柊吾くん?」と聞き返す。
俺は中村さんに軽く頭を下げて急いで部屋を後にした。

俺には三波聖をこれ以上待つ余裕など一ミリもなかった。
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