俺が優しいと思うなよ?


そんなことで俺は響さんとギクシャクしてしまった二日後。
夕方、前日から総合インテリア企業の一ノ瀬リビングとの打ち合わせで出張していた響さんが会社へ帰ってきたかと思えば、間を置かずに俺を呼んだ。俺もちょうど桜井と外出する予定があり、コートを手にしたまま社長室へ向かった。

「前に見せてもらった写真とは雰囲気が違うようだったけど、駅で見かけたから声をかけちゃった」
「……え?」
誰のこと、など聞かなくてもわかる。
意表を突かれて俺はボスに対して体を乗り出した。
「響さん、一昨日俺に「突っ込むな」と言ったばかりじゃないですかっ。なに自分でフライングしてるんですか。本当に三波聖が逃げたらどうするんですか!」
「そうなんだけど……ごめんね、僕も気になっちゃって」
早口で捲し立てる俺に、響さんは申し訳なさそうに俺の様子を伺いながら謝る。

しかし響さんが三波聖に接触したことで相手が警戒して決まったら、今度こそ離れていってしまうかもしれない。

──今ここで捕まえておかないと。

もう、遅いかもしれない。
とにかく自分の目で確認しなければ。俺はサッとコートを羽織った。
「捕まえに行きます。響さんも、早く」
「え?僕、二十時からリモートの打ち合わせが……ちょっと、待ってよ」
少なからず責任を感じているのだろう、響さんも慌てて上着を手にした。

この時、俺は三波聖を目の前にして何を言えばいいのかなんて考えてなかった。
ただこれ以上、彼女を見失うことだけはしたくなかった。

追いかけて、つかまえる。

これしか頭になかった。


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