俺が優しいと思うなよ?

『成海くん、お疲れ様。三波さんのことは聞いたよ。出勤していないんだって?』
多分、倉岸から聞いたのだろう。
「そうです。彼女は昨日の夕方までアパートにいたことは確認できましたが、若い女の子が訪ねてきてからの行方が分かりません。アパートの部屋の鍵もかかっていて、中には誰もいないようです」
響さんはスマホの向こうで少しの間無言だったが、
『わかった。僕の方も少し調べてみるよ』
と返事があり通話を終える。

手のひらの小さな消しゴムを見つめる。
スケッチブックに描いては消しゴムでゴシゴシと消していた三波を思い出す。
元々は大きかっただろう消しゴムが、今は枝豆ほどのコロコロとした形だ。
「あいつ……どこに行ったんだ?」
焦りと苛立ち、そして心配が俺の中で渦巻いていく。
教会のデザインが描けないと、いつも不安そうな顔ばかりしていた三波を思い出し、消しゴムを握りしめた。


「ん?」
ハンドルを握ったまま、まさかと頭に浮かぶこと。
三波は今回の都市開発のために俺たちが入社させたというこちら側の理由があるが、本人にしてみれば教会のデザインが出来上がったからという理由でお役御免とばかりに「後はよろしく」と丸投げしてきたということはないだろうか。

「……いやいや、それはないはずだ……」

良からぬ妄想を消そうと頭を左右に振る。

──この仕事をするにあたり、俺はあいつの願いを叶えると、あいつも俺に協力すると利害一致で手を組んだのだ。

じゃあ、三波はどこに。




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