俺が優しいと思うなよ?
遡ること、四日前。
大政建設の創立記念パーティーで二条詩織さんから成海さんに想いを伝えると聞き、すっかり尻込みした私は成海さんに会うことなくアパートへ逃げ帰った。
成海さんに買ってもらったドレスもバッグも、全部皺にならないように汚れないように片付けた。自分もシャワーを浴びて綺麗に施してもらった化粧も、ヘアメイクした整髪料も落とした。
日常の自分に戻りアパートで一人になると、成海さんと過ごした二日間がまるで夢のような出来事に思えた。
二日間、成海さんの部屋で私が教会のデザインを考えている側で、彼は私の身の回りの世話を焼いてくれたのだ。
──しかも、成海さんのトレーナーを着たまま、スッピンの顔を晒して平然と一緒に食事をして、鉛筆を握って過ごしていたなんて。
思い出して恥ずかしさと情けなさに顔から火が出る。
若い男性と二人きりで、素のままで穏やかな時間を過ごしたことがなかったのだ。
私が私として、当たり前に。
成海さんが頭の中に広がっていく。
いっぱい、いっぱい。
飲み込めないほどに。
──彼は、私にとって大切な人。
「成海さん……」
そう呟いては、溢れ流れる彼への想いが止まらなくなる。
『三波さんは、どんな教会で結婚式をしたい?』
思い出す仁科係長の言葉。
「私の隣に……成海さんがいるのなら」
ウェディングドレス姿の私の横に彼がいるのなら。
突然、頭の中が一気にクリアになっていく。そして巨大な妄想という、狭い部屋いっぱいに現れた大きな建物。
「あ……ああ……」
全身がガクガク震え開かれた目が瞬きできない。気持ちが抑えられず叫びそうになる。
「これだっ!」
慌ててスケッチブックを掴んで白い紙の上に外観を描き込んでいく。すぐに次のページを捲っては鉛筆を走らせていく。
──早くCADに落とさないと!でもパソコンが……。
カバンの中にはソフトとUSBメモリがある。
「あっ、そういえば」
私は思い出して、押し入れからボストンバッグを引っ張り出し、着替えを詰め込んで部屋を飛び出した。