俺が優しいと思うなよ?

外に出れば手を振りほどいて逃げればいい。
「離して!」
と、私は思いっきり腕を振り上げた。
と、西脇は私の目の前にスマホの画面を向けた。
「!!!」
その写っているものに再び驚いた。

「これ、成海のパソコンに送っていいか?」
「?!」
その画像に、私の体は脱力して吐きそうになる。

そこには青白い顔をして上半身を惜しみもなく晒して眠る、私がいた。



これが私がこの西脇のマンションに来ることになった経緯だ。あの醜態の写真を持っている彼に心底驚き憎悪も感じたが、私も当時の狂った自分を思い出すと抗うことも出来なかった。
私は当時も今も、西脇と付き合っていない。これは天に誓って言える。そして何度だって成海さんに言える真実。でも、あの時のことは一生の汚点であり、成海さんには絶対に知られたくないことだった。だから西脇の脅しに応じたのだ。
真木さんも西脇の企みに一枚噛んでいた形だったが、彼女はあの男の全てを知っているようではなかった。紹介状を餌に都合良く使われた、一部見えない被害を被っていたと考えれば怒る気も失せていく。

そして、元は自分が撒いた種だと思えば自己嫌悪に浸り西脇に足を踏み入れるしかない。
西脇はスマホに目をやりながら、私に言った。
「お前もバカだな。三年前に会社を辞める時に遅かれ早かれこうなると予測できなかったか?あの会社でコンペに勝ち残っていたゴーストデザイナーのお前が俺や社長が容易く手放すと思ったか?まあ、キヨスクで働き始めたと知った時は、完全にこの業界から抜けたと思って様子を見てた程度にしていたのに」
「キヨスクで働いていたことも、知っていたんですか」
「ああ。お前の自宅と勤め先と普段の行動くらいはな」
「……」

──それは、立派なストーカーではないか。

ずっと背筋をぞくぞくさせる私に対し、西脇は全く悪びれる様子もなくこちらに顔を向けた。あれから三年が過ぎた彼の顔は少しシワが深くなっていた。
「あのまま大人しくキヨスクで働いていればよかったのにな。何を思ったのか、成海のいる響なんかに入社なんてするから、多少強引でも連れ戻さなきゃ行けなくなったじゃねぇか」
「別に響建築デザインに入社したからといって、私がヴェール橘の話なんてする訳ないじゃないですか。もう三年前のことですよ、それに響建築デザインでヴェール橘のことを聞いてくる社員なんていませんでした」

西脇は困ったように「はぁ」と息を吐いた。
「そういう問題じゃねぇんだ」
と、私を見据えた。
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