俺が優しいと思うなよ?

「言っただろ?「使えるゴーストデザイナーを手放すと思ったか?」と」
そう言ってゆっくり立ち上がると、手に何かを持って近づいてきた。
「それは、どういうことですか」
怖くなった私は、椅子から立ち上がろうとした。しかし彼の両手が私の肩を掴んで、それを許してくれなかった。
「お前だった見てきただろ?世間で評価されたデザインは、同時にデザイナーの実力も買われる。そういう輩は会社にも利益をもたらす。そして少しだけ上がった給料を与えられたことで「自分は特別なんだ」と思い込まされ、実際割に合わない労働を続けていくんだぜ?まさに社畜だ、社畜」
西脇は私の足元に屈む。
「ちょっと、何してるんですか」
そういった時には、私の足首に冷たい何かが触れた。
カチャ、という金属音。

「なあ、三波。夜のバス停で会ったあの日、成海がお前を可愛がっているんだと知った時の俺の気持ち、わかるか?」
「な、何を言ってるんですか。それに足首のは……手錠っ?」
テーブルと自分の足首に繋がれた鎖に不安や恐怖が先走り、西脇の話がほとんど頭に入ってこない。片足に付けられた手錠を、踵が抜けられないか引っ張ってみる。
そんな行動を気にすることもなく、彼は話し続ける。
「三波聖という人間を、俺があのガキより先にモノにしたのによぉ……」
そう言いながら立ち上がる。目を細めているが、彼が怒っていることがわかる。

──私を、どうしようというの?

体を強ばらせる私に、西脇は頭をさらりと撫でた。

──ひっ!

ビクッと体を震わすと、足首の黒い手錠がジャラッと音を立てる。
手錠は鎖に繋がり、鎖はテーブルの梁に巻かれ南京錠で固定されていた。

「本当は、こんな真似したくないんだけどなぁ。お前、絶対逃げ出すだろ?」
「当たり前です!」
こんな所に一秒たりともいたくない。
怒り顔で訴える私に、西脇は少し呆れた顔をした。
「おいおい、もう少し元上司に同情してくれよ。さっき話したとおり、俺には時間がない。科学館のプレゼンの期日が迫っている。市立図書館のようなデザインが市長の要望だが、あんなデザインが描けるのは今のうちの会社にはいない。だからお前を連れてくるしかなかった」
「私は響建築デザイン設計事務所の社員です。前の勤め先と言えど、他社の仕事は何と言われようと受けません」
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