俺が優しいと思うなよ?
西脇は南京錠の鍵をジャケットのポケットに入れると、整えた細い眉を下げる。
「そんなこと言わずに、困っている俺を助けてくれよ。ああ、そうだ」
と、また何か思いついたように声を上げた。
「ああ、そうだ」という口癖は、ろくなことにならない思いつきをした時。
それをよく知っているから、私はビクリと震える。西脇は「お前にとってもお得なことだ」とニヤリと笑う。
「三波、入社して二カ月足らずで無断欠勤なんて、きっと成海に怒られるだろうし会社にも居ずらいだろ?その上成海の信用もなくなるくらいなら、素直に科学館のデザインを描いてヴェール橘に再就職すればいいじゃねぇか。三波の待遇くらい俺が社長に言って話をまとめてやる。響建築デザインには退職届だけ送ればいい」
「なっ、何を言っているの?」
やはりとんでもないことを言い出した彼に、私は腹が立ってきて大声を出してしまった。
「ヴェール橘にいた時からそうだったけど、何故私のことをあなたが勝手に決めるんですか?万里子社長も自己中な人ですけど、私はあなた達に操り人形みたいな扱いが嫌で会社を辞めたんですよ。そんな社員が何人もいたのに、どうしてまだ気づかないんですか」
思い出したくない過去を思い出しそうになり頭をブンブンと振る。
──弱気になったら、ダメだ。
そう自分に言い聞かせる私を、西脇はじっと見ている。
しかし、彼の態度は変わらない。
「何度も言わせるなよ」
低い声が部屋に響く。
「科学館のプレゼンが上手くいけば、設計部の役職に就けるように社長に言ってやってもいい。また俺とお前で契約を取りまくって仕事をすればいい」
「そんなことは望んでいません。お願いです、家に帰りたいです」
「給料もボーナスも前より多くなるかもな。あんなボロアパートに住むこともないんだ。ああ、そうだ。お前もここに住めよ」
西脇のあまりな勝手の言葉に怒りが爆発しそうだ。男の喋りは止まらない。
「そうだな、一緒に住めば会社でなくてもここで仕事ができるし効率がいい。それに、一緒にいるんだ……好きな時にセックスができる」
「やめてっ!!」
我慢できずに吐き出した私の声は、悲鳴のようだった。息を吸うと「ヒュー」と喉から音がした。
「明日は出社しないといけないんです。成海さんが待っているんです。家に返してください」
掠れた声で言い放って、部屋から出ようとリビングのドアを開ける。
歩く度に足首から繋がれた鎖がジャラジャラとうるさい。