俺が優しいと思うなよ?


この場所から少しでも早く脱出したい気持ちはある。しかし鎖で阻止されている以上、どうすることも出来ずにいた。
「はぁ……」
開けっ放しのリビングのドア。外から誰かの足音が聞こえた時、すぐに声を出して助けを求めることができるようにと思っていた。が、ドア越しに座り込んで待っていても、希望も虚しく外からの物音は何一つしなかった。

日が暮れて部屋の中が暗くなってきたが、電気をつける気にもなれない。本当に何もできない自分にガックリと肩を落とした。
「成海さん、怒っているだろうなぁ」
呟く分だけ、成海さんに会いたくて恋しくなる。

「成海さんの月見うどん、食べたいなぁ。ナポリタンも美味しかったよねぇ……」

そう呟く分だけ、お腹から聞こえる音も大きくなっていく。


西脇が帰ってきたのは、翌日のお昼過ぎだった。
昨夜いつの間にか眠ってしまい、目が覚めたのは夜明け頃だった。少し気分が悪く、テーブルに頭を預けている。頭の中が真っ白なまま、窓から見える少しずつ明るくなっていく外を見ていた。

玄関からガチャリと音がして、床を歩く足音が聞こえれば、私は頭を起こして西脇を見上げた。
彼は私を見て、テーブルの上に視線を移して機嫌悪そうに「チッ」と舌打ちをした。
「何も食ってないのか」
「……」
表情が顔に出ているかもしれないと、俯いて目を合わせないようにする。
西脇はテーブルの上を見回し、何も描いていないスケッチブックで目を止めた。
「……何も描いてないのか」
「……」
考えを変えない私は、黙っていた。
彼は私の前で膝をつき体を屈ませ私の顔を覗き込もうとする。視線を合わせたくない私は顔を逸らす。
「三波、言ったろ?お前がここにいることが、既に響に戻れない状況を作ってるんだよ。響の信頼を失うくらいなら、また俺と組んで仕事すればいいじゃねぇか、な?」
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