俺が優しいと思うなよ?
西脇はジャケットの内ポケットから取り出す。
「ほら、お前のためにこんなものまで用意したんだ。俺って優しいだろ?」
と、ヒラヒラと揺らすその手にあるのは「退職願」と書かれた封筒だった。
「?!?!?!」
一瞬で、成海さんとキヨスクの事務所でのことを思い出した。
「そんなもの、勝手に作らないでっ!」
あの時の怒りの感情が重なり、手を伸ばして彼に飛びかかった。しかし、成海さんとさほど身長の変わらない西脇の、高く上げられたその封筒に届くわけがなかった。
西脇は呆れ顔だ。
「いい加減、諦めろ。響にいたって仕方ないだろ?成海はああ言ってたけどな、内心お前のことなんてただの雑用係くらいにしか思ってねぇよ」
「そんなことっ」
言われたことに腹を立てながらも手を伸ばして、望まない「退職願」を掴もうとした。
しかし、勢いぎ過ぎたのかテーブルの脚に足のつま先を引っ掛けてしまった。
「あっ」
その拍子に私の体は目の前にいる西脇へよろけてしまう。
寄りかかってきた私に、西脇の腕が後ろから伸びてきた。
「やっぱり、俺がいねぇとだめだろ?」
「は、離してっ。そんなつもりないんですっ」
誤解だと、離れたくて両腕に力を入れて彼を押そうとしたが、相手は更にたった一本の腕に力を入れて私の肩を抱いた。いとも簡単に見せつけられた力の差に、私の悔しさと恐怖のバロメーターを倍増させた。
ギッと睨み上げると、西脇はニヤリと余裕の笑みを見せた。
「なんだよ、あの時は俺が抱きしめるだけで喜んで股を開いてきたくせに」
「変なこと言わないでっ!」
墓場まで持って行きたい黒歴史をサラリと抉るこの男に、心底腹が立ってきた。