俺が優しいと思うなよ?
ガチガチに固くした全身の力を抜く。
そんな様子に気づいたのか、西脇は「やっと大人しくなったか」と呟いて私の手首から手を離した。抵抗の意思がないと思ったのか、彼は動かない私を人形のように抱きしめた。
「痛くして、悪かった。ベッド、行くか?」
男はそう言って、私の首筋の印にもう一度唇を落とした。
──成海、さん……。
目の前に浮かぶ幻の大好きな人の姿が、霧のように消えていく。
諦めたく、なかったのに。
そのとき。
ピンポーン。
玄関のインターホンの音がした。
西脇が私の顔を見る。きっと私は締りのないぼんやりとした顔をしているのだろう、彼は「気のせいだ」と言って私を抱きあげようとした。
「ピンポーン」
間違いなく聞こえた呼び鈴。
ハッと気づいた私は自分で体を起こす。
──誰か来た!
「だっ、誰か!たすっ……んっ」
声を出そうとする私に、西脇は手近にあったネクタイで私の口を塞いだ。
「声を出すな。騒いだらお前の全裸の写真を成海に送るぞ?」
「……?!」
そんなものをまだ他に持っていたことに絶句する私に、彼は横目で睨み立ち上がる。そしてソファの陰に私を隠すように座らせると、インターホンのボタンを押した。
インターホンの向こうから聞こえた声は、このマンションの管理会社の者だと名乗った。
「お部屋の件でご確認したいことがあります」
という言葉に、西脇は数秒ほど無言で何かを考えて「少しお待ちください」と通話を終えた。
「騒ぐなよ。ああ、そうだ。科学館のデザインが完成したら一緒に旅行しよう、お前が行きたいと言っていた北海道でもいいぞ」
と、部屋を出ていく。
西脇は何を思ってそんなことを言ったのか。
──私があの人の考えが分からないと同じように、あの人も私の思っていることなんて、きっとわからないわね。