俺が優しいと思うなよ?


そう言われて、ハッと今になって気づいた。

──私、お風呂に入ったの……いつだっけ?

「すっ、すみませんっ。私、クサイですよねっ?!」
臭いを確認するために自分の腕をクンクン嗅ぎながら後ずさりする私に、成海さんも自分の言った意味を理解したのか「違う、そうじゃない」と言って近づいてきた。

「勘違いするな。本当はとにかくすぐ寝かせてやりたい、手首の手当もしてやりたいんだが……」

彼は私の痣のある手首をそっと持ち上げてぐっと顔を歪ませる。

「でも、どうしても嫌なんだ」
そう言って私を見つめた。

「そのお前の体にまとわりついた、あの男の匂いが……嫌なんだ、どうしても」



少し温めのシャワーに身を任せて、気持ちを落ち着かせようと何度も大きく息を吐く。

──西脇の匂いのついた私が嫌だと言った、今にも泣き出しそうな成海さんの顔が頭から離れない……。

「成海さん……」
ふっと見え隠れする雄らしい彼の言葉に、勝手に胸を熱くさせてしまう。

成海さんの気持ちなんて、わからないのに。


浴室を出て、成海さんから渡された紙袋に目が行く。私が脱いだワンピースや下着は先日同様、洗濯機の中で静かに洗われているようだ。そして、着替えには見覚えのある黒のトレーナーが用意されていた。


それは、私の手の上でふんわりと、そして愛らしいベビーピンクでキラキラと輝いていた。その輝きがふるふると揺れているのは、間違いなく私の手がガクガクと震えているからである。

紙袋から取りだした「それ」が何かの間違いであって欲しいと思っていたが、どんなに驚こうが睨もうが泣こうが、その色や形は変わることはなかった。

ベビーピンクの総レースの、ゴージャスなパンツ。

当然、そのあたりの衣料品店やコンビニには売っていない、高級ランジェリーショップで見かける「それ」だ。

主張強く光り続ける手のひらの上に鎮座する「それ」を、困り果てて見つめる。
「これ、私が……はくの?」
これほど艶かしい下着を手にするのも生まれて初めてなのに、身につけるなど恥ずかしくて目が回りそうだ。
そして、思わずポロリと口にしてしまった。

「もしかして……成海さんが、買ったの?」

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