俺が優しいと思うなよ?


前回と同じくして、トレーナーからはみ出す色気のない太ももをバスタオルで隠しつつリビングに戻る。
「お風呂ありがとうございまし……」
と、部屋のドアを開けながら声をかけると、ふわっとお出汁のいい香りが漂った。
その瞬間、私のお腹が「ぐぐぐうぅぅぅ……」と盛大に叫び出した。それもそうだ、西脇に連れ去られてから何も食べていなかったのだ。
キッチンで私に気づいた成海さんが、
「時間がかかっていたから風呂で倒れてるんじゃないかと思った」
と言って菜箸片手にやってきた。

──キラキラパンツの眩しさに圧倒されていました。

とは言えない。
アラサーの私は視界に入れて欲しくない太ももをバスタオルでもじもじと隠しながら「だ、大丈夫です」とだけ答えた。

成海さんの顔がスッと近づいてくる。そして、軽く「すんっ」と鼻を鳴らした。
「ん、俺と同じシャンプーの香りだ」
と満足気にニッと笑う。
ドキッと胸が強く脈打つ。
すぐに離れていくその後ろ姿に、もう一度手を伸ばして触れたいと思ってしまう。もう一度、あの時のように抱きしめてくれたら、と。

「腹減っただろ?月見うどん作ったから食うぞ」
「あ、はいっ。いただきます!」

話しかけられてハッと慌てて手を引っ込め、頭に浮かんだ甘い妄想を消した。


お腹は空いているのに、出汁のきいた美味しい月見うどんなのに、何故か全部食べることができなかった。
半分ほど残した私に、成海さんはじっと様子を見るように話しかける。
「三波。監禁されている間、ちゃんと食事はしたのか?」
「いえ……パンやおにぎりを食べるようにと用意はされましたが、私が食べたくなくて手をつけなかったんです」
成海さんは少し考えて「そうか」と呟く。
「三波、無理に食べなくていい。空腹だった腹にいきなり食べ物をたくさん摂取しても体に悪い。明日はもっと消化のいいものを作ろう」
「い、いえっ。そこまでしてもらうのは申しわけ……」
と、断ろうとした。
片付ける食器を持って立つ彼が振り向く。
「三波、こういう時は謝るんじゃない」

『 ありがとう、だろ?』
教えられた言葉が頭に浮かぶ。

「あ……あ、ありがとう、ございます」
戸惑いながら口を開いた私に、成海さんは「ああ」と口角を上げて答えた。

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