俺が優しいと思うなよ?

「ようこそ、響建築デザイン設計事務所へ。三波聖さん、君の入社を歓迎するよ」

オフィスの美人な受付嬢が華のある笑顔で微笑み、社長である響恭介さんが爽やかな笑顔で両手を広げて出迎えてくれた。
その隣に黒のスーツを着こなす獣…成海さんは私に目を向けても無表情だ。


ビジネスホテルで成海さんに抱きしめられて泣いた夜、私は年甲斐もなく泣き疲れて眠ってしまった。
朝起きてみれば彼の姿はなく、私はベッドで丁寧に掛けられた布団の中で寝ていたことに気づく。テーブルにはメモがあり「宿泊の支払いは済ませてある」と書いてあった。
それは私にしてみれば、ありがたいことだった。泣き腫らした目をした、浮腫んだ酷い顔を彼に見られずに済んだのだから。

体調を崩した私のために部屋を用意してくれた成海さん。彼のさりげない優しさが、素直に嬉しかった。
宿泊代は必ず返そうと、お金を封筒に入れて持ち歩いている。

「改めて、おはようございます。三波聖です。本日からよろしくお願い申し上げます」
私日彼らの見守る前で、深く頭を下げた。

頭を下げる瞬間、切れ長の瞳の美しい獣の口角が少しだけ上がっているように見えた。




< 24 / 180 >

この作品をシェア

pagetop