俺が優しいと思うなよ?
獣と美女

私の住むアパートの最寄りのバス停の隣には、よく子供たちが遊んでいる公園がある。すべり台とブランコと砂場、ベンチがあるだけのものだが、しっかりと子供たちの寛ぎの場を果たしていた。桜の木がその公園を囲うように植えられていて、春になると見事に咲き誇りちょっとした花見スポットになる。

その桜の蕾が膨らむと、「春が来るんだなぁ」と仕事で荒んだ心が少しだけ軽くなるのだ。

今日も変わらず成海さんの下で働いている。

西脇さんに再会して、成海さんに自宅まで送ってもらったあの日。
成海さんの車を降りてアパートの階段を上がろうとした私に成海さんは声をかけた。

「俺はお前以外の誰かと組んで仕事をするつもりはないし、お前を辞めさせるつもりもない。だから、ちゃんと仕事に来い」

彼は何を思ってそんなことを言ったのかわからないが、私が西脇と会っても自分から会社に誘った手前、私をすぐにクビにすることが出来ず意地を張って言ったことなのか。それとも本当に私を信頼して言ったことなのか。今の私の仕事ぶりからして、後者はないだろう。

そろそろ、今度こそ私が退職願を書かなければ行けない時が来たのかもしれない。

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