俺が優しいと思うなよ?

力を込めて引っ張り上げられた私は立ち上がる。

「明日の夜まで、俺と一緒にいることだ」

先日、車の中で揉めた時以来、間近で見る成海さんは眉間に皺を寄せて口をへの字に曲げても、腹が立つほど美しい顔をしていた。

──そういえば、まだパーティーを断っていなかったかも。

確かパーティーは今週末のはずだ。科学館やヴェール橘のこと、教会のことでキャパオーバーして、パーティーを断ることをすっかり忘れてしまっていた。
「あの、突然で申し訳ありませんが、思うところがありパーティーは……」
「お前の言い分は聞かない」
と、成海さんに話を遮られてしまった。
「この前言ったはずだ。忘れていたとは言わせない。これからお前のドレスを買いに行く。その後俺の家に泊まって、明日一緒にパーティー会場へ行く」
「え?ドレス?泊まる?」
すっかり動揺する私を余所に、成海さんは私の手から器用に握っていた鉛筆を抜き取ると、手を握りしめたままもう片方の手で私のデスクの下に押し込んであった上着とカバンを取り出した。それらをまたもや器用に脇に挟むと、今度は自分のカバンを持つ。

「行くぞ」
成海さんは私の手を引っ張って歩き出した。
私はデスクから離れる直前に、咄嗟に空いた手で机上のスケッチブックを掴んだ。

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