俺が優しいと思うなよ?

「成海さん。パーティーやドレスはともかく、成海さんの家に泊まるなんて話はなかったじゃないですかっ」
「効率を考えた。それにお前、ドタキャンしそうだしな」
一瞬ドキッとしながらも、間を置かずに言い返す。
「ど、ドタキャンはしません。だから家に帰らせてください。着替えも持ってないですし」
「着替えは貸してやる。その間に服は洗濯すればいい」

──着替えを貸すって……え?
とんでもない返事に、顔が急に熱くなる。
「いえ、貸していただくわけには……それにデザインも描きたいですから」
「エレベーターの中で騒ぐな」
成海さんにギロリと睨まれたが、こちらも黙っているわけにはいかない。
言い合いは地下駐車場まで続いて、成海さんの車まで来た。ずっと握られたままの手は、成海さんが力を入れているのか痛さが増すばかりだ。
「成海さん、お願いです」
「お前の言い分は聞かないと言ったはずだ。乗れ」
「成海さんっ」
私は車の助手席に押し込まれ、言うことを聞かない私に不機嫌の成海さんは車を走らせた。

成海さんに掴まれた手が赤くなってジンジンと痛い。

──何故、こんな乱暴な真似をするんだろう。これでは「あの人」と同じじゃないか。

思い出したくないあの頃と成海さんの行動が重なり、私は助手席でブルッと震えた。

車を走らせながら、彼は言った。
「……強引に連れ出して、悪かった」
「そう思うなら、家に帰してください」
「それは駄目だ」
「どうしてですか」
外から入り込んでくるライトの明かりに照らされた白く浮かぶ無表情の彼の横顔に、私は食い下がった。
成海さんは少し黙り込み、眉間に皺を作った。

「自分で自分を追い込むお前を、放っておけるわけがないだろ」

予想もしていない答えに、心臓がドクンッと動く。
「焦燥感から自身を追い詰めて壊れていく同業者を、俺は何人も見てきた。お前も知っているだろうが、建築屋は完成するまでは気が抜けない厳しい世界だ」
確かにその通りだ。施工工事が完成するまではもちろん、建物のデザインだけでも先方が納得しなければ何度も書き直すこともあるのだ。その大変さは、私も嫌というほど知っている。

「お前だけは、アイツらと同じには絶対にさせない。そのために俺がいるんだ」

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