俺が優しいと思うなよ?
とくんっ、と小さく打つ私の心臓。
──思えば、成海さんは今まで仕事で無茶な指示をされたことがなかったかも。
そんなことを思っていると、
「勤務時間外でも仕事がしたいなら、俺の横でデザインを描けばいい」
と、彼は運転しながら意地悪そうに口角を上げた。
「ええっ?!」
想定外の言葉に、私はギョッとして彼へ振り向いた。
成海さんは当然のように話し出した。
「別に俺は構わない。俺の横で黙々と仕事をしても気にしない。ただ、俺の方はプライベートだから多少の邪魔はするかもしれないけどな」
車から降り立ったのは都心部から少し離れた、セレブの高級住宅街に隣接したお洒落な商店街のお店だった。白い壁にお店の名前を打ち付けた、シンプルな店構えだけど高級感を感じた。
「いろんなブランドを揃えたセレクトショップだ」
成海さんは行きつけのように慣れた足取りで店内へ入っていった。
高い天井の吹き抜けのある二階建ての店内は、広い空間で商品の陳列も美しく飾られていた。
「いらっしゃいませ。成海様お待ちしておりました」
「こんばんは。遅くなりました。先程話したとおり、彼女のパーティー用のドレスと小物一式をお願いします。」
恭しく姿を現した美人な女性店員たちに、成海さんは淡々とした口調で注文をする。先程、ということはここに来ることは事前に予約してあったらしい。
成海さんは私の肩を軽く叩く。
「俺は少し用がある。後で迎えに来るから、ここで待ってろ」
「え……」
彼がここにずっといるわけじゃないのだ、と私の頭の中で「帰宅できる隙」を伺う。
しかし。
「だからといって、勝手に帰るなよ。もしそうなったら、お前の家に押しかけて夜中じゅうドアを叩き続けるからな。あの薄っぺらい玄関ドアだ、部屋全体に響くだろうし近所迷惑にもなるだろうな」
「……」
彼にアパートを知られているだけに、何も言えなかった。