俺が優しいと思うなよ?
ドレスを数着の試着を経て決めた頃には、このお店に来て既に一時間弱が経ってることに気づいた。メイクをしっかりと施した店員たちに成海さんとの関係や彼のプライベートのことなどを聞かれ、「成海さんは会社の上司です」「プライベートはわかりません」を何度も繰り返した。
やっと質問攻めの着せ替え人形の役目を終えた私はぐったりと店内のソファに座っていた。私の横にはドレスの入った衣装ケースと小物一式が入った袋が置かれている。
しかし、居心地が悪い。
店員にドレス一式の料金を聞こうとしたが、
「精算は無事に済んでおりますので、成海様がお見えになるまでお待ちくださいませ」
と言われてしまった。
一体、彼は私にいくら費やしたのだろう。
──一桁の万単位じゃ済まないよね……。
私は隣に堂々と鎮座する、カッチリと箱に詰められた荷物を見つめた。
「成海さん、やっぱりドレスのお金払います。貯金なら少しあるので、何とかなります」
あれから迎えに来た成海さんに訴えた。
「だって、どう考えても成海さんにドレスを買ってもらう理由がありません」
「……俺が」
彼はハンドルを握った横顔で言う。
「俺が着飾ったお前を見たい、という理由で十分だろ」
「……は」
ボッと火がついたように顔が熱い。
──そんなこと、初めて言われた。
成海さんは左手をハンドルから離して、私の頭の上にぽんと乗せた。
「三波、こういう時は素直に「ありがとう」と言えば、男は喜ぶんだよ」
と、そう言った口角は機嫌良さそうに上がっていた。