俺が優しいと思うなよ?


「ここが、成海さんの住んでいるマンション……」
ちらほらと星の見える夜空の下、成海さんのことだから最上階が見えないタワマン住まいかと思いきや、都心から少し離れた閑静な住宅街の中にある五階建てのズラッと横へ伸びた低層マンションだった。白っぽい壁の、どこかお洒落な感じがする。

「俺はひとり暮らしだし、ここには寝に帰るようなものだから防音設備が整ったところならどこでもよかったんだ。ただ、お前が住んでいるようなアパートは考えてなかったがな」
と、成海さんはポロッと嫌味を言うとフッと笑った。

マンションの五階でエレベーターから降りる。東の角部屋が彼の住処のようだ。
「入って」
購入した荷物を手にしたまま、彼は器用に解錠して私を部屋へ招き入れた。
玄関先でフワッと漂ってきた柑橘系の香り。

──この香りは……。
車の中でも同じ香りがしたと思い出し、前を歩く成海さんの背中を見つめる。

部屋全部が、成海さんの匂いなんだ。
そう思うと、全身がボッと熱くなった。

「ここの間取りは2LDK、そしてここはキッチンとダイニングとリビング。廊下右側は寝室と書斎。左側はトイレ、洗面、風呂。同じ会社の人間だから書斎に入っても問題ないが、かなり散らかっているから入らない方がいい。他は好きに使っていい」
と、成海さんはひととおりの説明をした。私はコクコクと頷き「はい」と返事をする。
成海さんはリビングに荷物を置くと自分のコートとカバンを手に部屋の取っ手に手を置いた。
「腹が減った。着替えたら飯を作るから、お前も先に風呂に入ってこい。お湯は沸いてるはずだから」
と言われ、私はハッとして「成海さんっ」
と声を上げた。
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