俺が優しいと思うなよ?

「ん……おいひいれす」
「口の中いっぱいにして喋るなよ」
もぐもぐと頬張る私に、成海さんは注意しながらも仕事では見ない柔らかい表情を浮かべる。玉ねぎとピーマンとウインナーのシンプルなナポリタンなのに、酸味が強くなくて食べやすい。おかわりもイケるくらいだ。

「家」という空間で誰かと一緒に食事をすることなんて、いつぶりだろう。
この前は初めて真木さんと居酒屋でご飯をしたけど、今はそれとは違う落ち着いた空気があった。
「三波」
鳴海さんに呼びれて顔を上げると、向かいから長い腕が伸びてきた。

その腕が、一瞬「あの時の腕」と重なり驚いてビクリと体を震わせた。その拍子にフォークが手から落ちて床でチャリンと音を立てた。
成海さんの手がそのまま伸びてきて、その長い指で私の口の横をくいっと拭う。
「ケチャップがついてる」
と言って、ケチャップがついた指を私に見せてくる。
途端に私の両肩の力がスッと抜けていった。
「あ、すみません」
と、フォークを拾ってカウンターにあるティッシュ箱を取ろうとした。
「成海さん、ティッシュ……」
そう言って振り向くと、彼は指のケチャップをペロッと舐めていた。
「?!?!?!」
その仕草は再びフォークを落としそうになるくらい、多分女性たちのハートを破壊させるには十分の色気を放っていた。

フェロモンがだだ漏れの男の扱いなど、私にわかるわけがない。私に出来ることは、とにかく早く食事を終わらせることだった。
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