エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました
お母様は、それはそれはうれしそうな笑みを浮かべて、私の手を握る。しかし、当の私は急展開について行けず、曖昧に笑っているだけだ。
「そうしてくれ。じゃ、俺たちは仕事だから」
「はいはい。お節介な母は去りますよ。お父さんにも連絡しておかなくちゃ」
声を弾ませながらそんな独り言を漏らし、お母様はスキップでもしそうな軽い足取りで社長室を出ていった。
嵐が去った……。と一瞬肩の力が抜けるが、すぐにハッとして私は社長に物申す。
「ちょっと、なんですか今の。お母様をぬか喜びさせてしまったじゃないですか。いくらお見合いを断りたいからって、嘘をつくのはどうかと思います!」
社長と秘書という立場の違いを忘れ、つい語気を強めてしまった。しかし社長は悪びれるでもなく、私を見下ろし不機嫌そうに口を開く。
「きみが隠し事をするから悪い」
その短い説明ではまったく彼の考えが読めず、私は眉根を寄せた。
隠し事って? 昨日、私がプライベートの感情は見せられないと言ったから?
「どういう意味でしょうか?」
聞き返す私を無視して、社長は自分のデスクに向かい、パソコンを打ち始める。
急に仕事モード? まだ全然話が終わってないのに……。悶々としながらも自分の席に戻り、私も仕方なくパソコンを睨んだ。