エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました
ふたりとも黙々とデスクワークに勤しみ、十分ほど経った頃だ。社長が部屋の隅の複合機でなにか印刷し始めた。
社内イチ業務のペーパーレス化に積極的な社長なのでその姿を珍しく思っていると、印刷の済んだ二枚の書類を手に、私のデスクまでやってきた。
「観月。これ確認して」
「はい」
二枚の書類の内一枚を差し出され、私はとりあえず表題に目を留める。
ええと、なになに。【結婚契約書】? ……って、なにこれ。パッと顔を上げたら社長はまだ目の前にいて、淡々と「全部読んで」と言った。
私はごくりと唾を飲みこみ、契約書の内容をひとつずつ目で追った。
【第一条 夫は妻を誠心誠意愛するので、妻もそれに応える努力をする。
第二条 夫婦は、隠し事をしない。
第三条 夫婦は、互いに他の異性と親密にならない。
第四条 夫婦は、勤務中に公私混同しない(夫婦関係になんらかの緊急事態が発生した場合はこの限りではない)。
第五条 婚姻後三カ月は試用期間とし、夫婦のどちらかが離婚を望んだ場合、その意思を尊重する。】
そんな条文の後に署名欄がふたり分あり、この書類を夫婦で一通ずつ保持し家庭の円満に務める――とある。