エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました
「全部読んだ?」
「……ええ。ですが少々理解に苦しみます。この、夫婦というのはいったい誰と誰をさしているのですか?」
眉をひそめて怪訝な顔をする私に、社長は苦笑する。
「きみは秘書として有能なくせに、こういう話になると察しが悪いな。俺ときみのこと以外ないだろう。どこの誰かもわからない女性と見合い結婚するくらいなら、俺はきみと結婚したい。その契約書にあるように、誠心誠意きみを愛するつもりだ」
まるで新たな経営戦略を打ち出す時のごとく鋭くまっすぐな眼差しで、社長が私を射貫く。
反射的にドキッと胸が鳴るが、どうして突然彼がそんなことを言い出したのか、意図が全くつかめず呆然としてしまう。
「まあ、急な話だから今すぐ返事ができないのは致し方ない。この週末を考える時間にして、契約に同意できそうならサインをくれ。俺ときみの、二通分な」
社長は一方的にそう言うと、手にしていた全く同じ契約書を私のデスクに置き、自分の席に戻っていく。
乱れた気持ちの収拾はつきそうにないけれど、いつまでも仕事に関係ない契約書を眺めているわけにもいかない。
私はとりあえず鍵のかかる引き出しに結婚契約書をしまい、その存在を頭の中から追い出した。