エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました
言いながら、つい目線が下を向く。彼と自分との身分差は常日頃からわかっている事実なのに、こうして口に出すとますます惨めな気分だ。
「ねえ観月」
「はい」
「ちゃんと俺を見る」
俯いたままで返事をしたら叱られてしまった。おずおず顔を上げると、大きな手がスッと顔の脇に差し込まれた。
温かくて硬い手のひらの感触、そして私を見下ろす優しい眼差しに、息が止まりそうになる。
「そんな理由で契約書に判を押さないんだとしたら、俺は怒るよ。観月自身がどうしたいのかちゃんと考えて、答えを出してほしい。きみは良くも悪くも自分を殺すのが得意で、だからこそ秘書に向いてるわけだけど。これに関しては自分の気持ちに正直になってくれないと、俺に対して不誠実だ」
「社長……」
私は今まで確かに、あらゆる場面で自分を殺して生きてきた。
自己主張を貫くことで誰かに迷惑をかけたり、嫌な気持ちにさせたりするくらいなら、その主張は飲み込んでしまう方が簡単にその場が丸く収まるから。