シークレットベイビー② 弥勒と菜摘
✴︎


「菜摘の言うように、ちょっと、配慮したら、オレ、嫌がられなくなったわ」


翌日、学校に行った櫂くんが、その帰りにマンションに来て行った。


「《金持ちがきたー、》っていわれたから、《大変だな、おまえらも、》って言ったら、逃げてった! 」


配慮⋯⋯ ? それは、櫂くん、前途多難だと思う⋯⋯ 。
どやって顔をしているけど、大丈夫かな⋯⋯ 。

櫂くんの報告を聞きながら、晩御飯の準備をする。あっ、大きな軽めの鍋とおたまがない、

一子を見たら熱心に《ごはん》を作っているところだった。
『これをいれて、これをいれて』と小さな声で呟いている。

「ごはんよー
おいしいねー」

一子は、可愛らしい女の子のおもちゃもいっぱいあるのに、お人形遊びは一切しない。
とにかく台所から、一番古くて一番大きなお鍋を、うっ、と持ち上げて、運んでリビングにどーんと置いて、また台所に戻って、やはり一番大きなおたまを持って⋯⋯ 。

とにかく、全部を入れる。

いくら仕分けても、ビーズをザラザラ〜とあけて、小さなぬいぐるみをゴロゴロ入れて、ぬいぐるみのすごく細かいおもちゃ、爪の先ほどのきゅうりやトマト、それらを熱心になべに入れた後、野菜一式ならまだいいのだが、今度は冷蔵庫や椅子やらも全部ほりこむ。
レゴもザラザラ入れて、机の上にあるペンも入れて。
とにかくあらゆるものを入れて。

時々、弥勒のシルバーのアクセサリーが入っているときもある。
彼の香水の蓋が入っていたときもあって匂いがして、一子が「まずくてたべられない、くさっちゃった」とか言ってた。

一子は1時間ぐらいかき混ぜて《ごはん》を作り、また台所にもどり、お気に入りの小さめの器を一個一個とって、置いて、大きめのスプーンを持っていって、置いて、《ごはん》をおたまでよそってくれる。


「はい、たべて」


と菜摘に、パルに、櫂に、ふるまう。


「すわりなさい
おいしいよー」


とすごく嬉しそうに言うから、もう愛しくなって、


「おいしいねー」

「上手にできたねー」


なんて答えてしまう。

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