シークレットベイビー② 弥勒と菜摘
菜摘はおだやかに2人に話しかけた。
「周りにいっぱい、いろんな事が積み上がって、見えなくなってるかもしれないけど、亜紀ちゃん、一番底にある本当の櫂くんを見れないかな? 」
そよそよと風が3人の間をぬって、吹いている。
「お金持ちとか、周りのこととか、フワフワってはがして、櫂くん本人だけみえるかな」
「う⋯⋯ ん」
「優しい? 」
「うん」
「自信がある」
「ちょっと多すぎるけど⋯⋯ 」
ふふ、正直で面白い。
「頼りになる」
「うん」
「頑張ってる」
「うん」
「傷ついてる」
「⋯⋯ 」
「そう考えたら、目に見えないものがほんとの櫂くんなんだ。見えないものの方が大事なんだねー。
お金じゃなくて、櫂くん自身をね」
「⋯⋯ 」
「じゃ、今度は、亜紀ちゃんのこと教えてくれる?
わたし、亜紀ちゃんの事知らないから」
と言ったら、
「いくらでも教えてやる」
と今まで黙っていた櫂が横から言った。
「まず、断然かわいいだろ」
そこから⁈と菜摘は思った⋯⋯ 。
「あまいし、素直」
と言ってから、うれしそうに、
「それに柔らかい」
と優しい声で言った。
「美味しい」
うーん、ちょっとまずった、美味しいってなに⁈
いたたまれない⋯⋯ 。
もしかして櫂くんて、天然のイケメンたらし⋯⋯ ? なんじゃ⋯⋯ 。
かわいそうに、言われた本人亜紀ちゃんは、これ以上ないぐらいに真っ赤になって、うつむいてる。
菜摘も伝染して、さらに赤くなる。
うわ〜。
それでも、まだ櫂は続ける。
「それにさ、亜紀が横にいると、なんかここが、」
と胸に手を当てた。
「ぐゎ〜ってなるんだ、おれ、病気かな、
可愛くて、じっとしてらんねー」
「櫂くんおちついて! 」
「だから、ほんとにごめんな」
と櫂が亜紀をまっすぐ見て、真剣に謝った。
すでにいたたまれないほど、赤くなってる亜紀は、涙目で、
「もういいよ」
とつぶやく、櫂の言うように柔らかい声、さっきのとりすました感じはない。
櫂が、
「よし! じゃ、明日からは、亜紀はオレの、な! 」
とやっぱり不遜な事を言って「櫂くん! 」と菜摘が注意しようと思ったら、砂場にいた一子がちょうどやって来た。
「かいの、だって」
と言いながら、泥団子を櫂の膝に、でーんと乗せたので、
「うわっ、きったねー、いちこ、きたねー」
「ごはんよー」
「うわ、おれ、泥だらけだ! 」
と櫂が駆け出して、一子と2人で騒ぎだした。
あんな甘い話をして、これか⋯⋯ 残念なかんじだよ⋯⋯ 櫂くん⋯⋯ 。
ちらっと亜紀ちゃんを見たら、それでも櫂を見ながら頬を染めていた。
「お金持ちが積み重なったり、恥ずかしかったり、ちょっとカッコつけたり、わがままだったり。
でも櫂くんは櫂くんだから。
どんなことがあっても、本当の姿をみてあげてくれたら嬉しいな」
赤い顔のまま、あきちゃんはうなずいた。