シークレットベイビー② 弥勒と菜摘
✴︎



十織くんが絵を描いている。
十織くんの横に行く。


「十織くんかいていい? 」

「⋯⋯ まぁ。いいけど。
ぼくは喋らないよ」


と、抑揚なく少し挑戦的、我慢できるの? って暗に言われたように思った。
全然大丈夫。黙ってるの得意だから、と黙って頷いた。

最初、胡散臭そうに見ていた部員の子たちの態度は軟化した。
わたしが黙ってるから。
黙ってひたすらじっと十織くんの側にいて絵を描いてるだけで、別に何にもしない。

同級生の絵は色が綺麗だったから、じっと見ていたら、同級生がわたしの絵を見て、


「石動さんの絵は、形がないから、何を書いているのか理解できない」


って感想を言われた。


「何書いてるの? 」

「くうき」

「⋯⋯ 」


そう、空気。

モヤモヤ〜ってして、うわぁ〜ん、と取り巻く空気。熱かったり、濃かったり、甘かったり、する。

十織くんの空気を自分のものにしてしまいたい。

彼の空気に入りたい。
一生懸命、感じて、見て、描いてる。

十織くんは、
「好きにすればいい、」
と動じない。
わたしが彼と彼の周りを、死ぬほど見てても動かない、だから、まだ彼の空気に届かない。

素敵だなって思う。

触りたいな。

感じたいな。

十織くんに近寄りたいな。

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