アンチテーゼを振りかざせ
そう仕事とは全く関係の無いことを思いつつ、ふと視線を上げると、やはり気怠い雰囲気が漂っている瀬尾さんを、気にしてしまう。
こっそりと、彼を視界に収めた瞬間。
_____え。
枡川さんは今回が初のリーダーだそうで、少し緊張気味に進行している。
彼女の話し声を聞きながらデータを確認している、その人の表情。
「(…なに、その顔。)」
奥二重の瞳を細めて微かにゆるんだ、包み込むような優しい笑み。
驚いて思わず凝視してしまいそうだったけど、今回から参加したばかりの私は、とにかくプロジェクトの内容を早く掴まなければいけない。
ざわざわと枝葉が揺らされるような感覚を帯びる心に気づかないフリをして、ノートを開いた。
◻︎
「USBありがと。さすがリーダー。」
「いえいえ、お役に立てて良かった。」
「序盤、声すごい綺麗に裏返ってたな。
さすがリーダー。」
「…瀬尾さん、最後にそれ言えば何でも許されるわけじゃないからね?」
打ち合わせを終えて直ぐ。
何気ない、きっと1分にも満たない会話を交わした2人。ふわり笑い合って、だけどそれからお互いに各担当者へと確認事項を持って、さっと離れた。
_____瀬尾さんと、枡川さんは、
「あの2人、同期なんだよ。」
何なのだろう。
そう心での問いかけに答えるように、やけに優しげな笑みで伝えてきたのは、香月課長。
「…同期、ですか。」
「うん。一緒の案件やるのは、初めてみたい。」
化学繊維を扱ううちの会社は、圧倒的に理系就職者が多い。事務系の総合職配属はたった数名しかおらず、すぐに地方へ配属されていった子も多くて。
本社ビルに居る同期は、別フロアに居る子を含めて3名。
仲が悪い訳では勿論無いけど、業務的に仕事が被ることもきっと無い。
"一緒に働く"
その感覚をあまり想像できない。
でも"同期"だったら。
あんな風に他では作られない空気感を
醸し出したり、できるものなのだろうか。