アンチテーゼを振りかざせ




そうして瀬尾さんと、何の進展もある筈が無いままに時間だけが経って。


私はその間にリニューアルプロジェクトの概要を漸く掴む事ができるようになってきた。



___それと同時にこのプロジェクトに対して、
自分が抱く気持ちの変化にも、気がつき始めていた。





次から次へと受信されるメールの仕分け作業をしていると、いつも面倒ごとを持ってくる課長に呼ばれて。


「…オフィス運営委員会、ですか。」

「そう、総務主導でやって欲しいって言われてる。リニューアルした後、オフィスを充分活用してもらえるような取り組みを考える委員会なんだけど、保城さんに、運営方針の企画とかお願いできるかな…?」


申し訳なさそうに、そう告げられる言葉。

謝罪するくらいなら仕事を振ってくるな、と思うけど総務部の保城 紬は、そんな風には言わない。



「…でも、私はリニューアルプロジェクトもありますし同時進行がなかなか厳しいのではと思いますが…」

「広報部も、この委員会のバックアップしてくれるそうだよ。だからリニューアルと並行してミーティング時間設けてくれて構わないって香月君が言ってた。」



凄いよね、と感心しているあんたも一応あの人と同じ課長職であることを、理解しているのだろうか。


「…引き受けてくれるかな?」

「分かりました。」


それでも。
私は二つ返事で、そう口にしていた。




◻︎


「保城、このプロジェクトちょっと楽しくなってきた?」

「お疲れ様です。」


今からプロジェクトの件で、枡川さんが来社される。

会議室でプロジェクターの投影準備をしていると、人当たりの良さそうな笑顔の香月さんがそう話しかけてきた。



「運営委員会も、引き受けたんだ?」

「はい。お声がけいただいたので。」


操作の手を止めて笑って答えると、香月さんは少し困ったように眉を下げる。


「…それだけ?」

「…え?」

「"上に言われたから。"

それだけで引き受けたの?」

「…、」


香月さんは私の隣の席に座って、優しい表情と声はそのままにそう尋ねた。


「暫くリニューアルのプロジェクト見てもらって、何か思うところあったのかなって、勝手にそう見立てしてたんだけど。」

予想が外れたかな、そう呟く彼をただ、じっと見つめてしまった。



どうして。



"…何か気になるところ、ありますか?"

"え?"

とある全体ミーティングの後、現段階でのオフィスリニューアル後のラフ画を眺めていた時。


ふわりと表情を柔らかく解した枡川さんに、そう声をかけられた。

"…あ、いえ。なんだか、今までのオフィスとは全然違うなと思って…。"

私達の今のオフィスは、昔ながらの机と椅子が向かい合ってひしめく、閉塞感の漂う空間だから。


"フリーアドレスなら、どこでも仕事をして良いオフィスになります。
集中的に引きこもりたい時のための1人個室もありますし、色んな人と話ができるチャットスペースなんかもあります。"

"…凄いですね。"

自由な構図のラフを見つめていると、素直にぽろっとそう口にしていた。私のその言葉を聞くと、彼女はもっともっと、笑顔を深める。


"しんどい時も、まあしょうがないから行ってやるかって妥協する理由にもなるような、素敵なオフィスにします!"

そして力強くそう告げられた言葉が、あまりに予想外で。

"何ですか、それ。"

私は思わず、クスクスと笑ってしまった。


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