アンチテーゼを振りかざせ




「枡川さん、会社でトラブルがあって戻られたんだよ。」


席へ戻ると、近くに座っていた先輩がそう教えてくれた。

成る程、だからあんなに急いで去っていったのか、と可愛らしいグラスに入ったグレープフルーツサワーに口を付ける。


そして隣をチラリと見やる。


「……瀬尾さん?」

「え?」

「どうかされましたか。」

「いえ、何でもないです。」


私の問いかけに、ゆるい笑顔を携えて答える彼はいつも通りどこか気怠そう。

だけど、チラチラと携帯を気にしている様子は、いつもとは違う。





瀬尾さん。

私が知りたいのは、瀬尾さんのことだけです。


もしかして、もう彼女がいますか?


_____それとも、好きな人がいますか?




「…枡川さんは、いつも全力ですよね。」

ポツリと呟くと、彼は奥二重の瞳を微かに丸くして2、3度瞬く。



そして。


「そうですね、危なっかしいリーダーで申し訳ないですが、仕事はきっちりやる奴なので。不安事項あれば何でも相談してやってください。」


ゆるりと目元を解す、その表情の柔らかさをこの人は自覚しているのだろうか。



馬鹿だなあ、私。


"この人を追いかけるのは
辞めておいた方が良いんじゃない?"


正常なサインはとっくの前から出ていた筈なのに。




やるせないこの感情を自分の中で持て余すことが、どんどんしんどくなって。

私はプロジェクトが進行して暫く経った頃、



《お話したいことがあります。

食事へ行きませんか。》


瀬尾さんにそうメッセージを送った。





< 20 / 203 >

この作品をシェア

pagetop