アンチテーゼを振りかざせ
「枡川さん、会社でトラブルがあって戻られたんだよ。」
席へ戻ると、近くに座っていた先輩がそう教えてくれた。
成る程、だからあんなに急いで去っていったのか、と可愛らしいグラスに入ったグレープフルーツサワーに口を付ける。
そして隣をチラリと見やる。
「……瀬尾さん?」
「え?」
「どうかされましたか。」
「いえ、何でもないです。」
私の問いかけに、ゆるい笑顔を携えて答える彼はいつも通りどこか気怠そう。
だけど、チラチラと携帯を気にしている様子は、いつもとは違う。
瀬尾さん。
私が知りたいのは、瀬尾さんのことだけです。
もしかして、もう彼女がいますか?
_____それとも、好きな人がいますか?
「…枡川さんは、いつも全力ですよね。」
ポツリと呟くと、彼は奥二重の瞳を微かに丸くして2、3度瞬く。
そして。
「そうですね、危なっかしいリーダーで申し訳ないですが、仕事はきっちりやる奴なので。不安事項あれば何でも相談してやってください。」
ゆるりと目元を解す、その表情の柔らかさをこの人は自覚しているのだろうか。
馬鹿だなあ、私。
"この人を追いかけるのは
辞めておいた方が良いんじゃない?"
正常なサインはとっくの前から出ていた筈なのに。
やるせないこの感情を自分の中で持て余すことが、どんどんしんどくなって。
私はプロジェクトが進行して暫く経った頃、
《お話したいことがあります。
食事へ行きませんか。》
瀬尾さんにそうメッセージを送った。