アンチテーゼを振りかざせ
私が失恋した後も勿論、プロジェクトで2人と顔を合わせる機会は沢山あって。
きっと直ぐにでも付き合うのだろうと、そう覚悟していたのに、何故だかごちゃごちゃとすれ違いを起こす彼らにもはや苛立ちさえ覚えてしまった。
枡川さんに、
「私、なんなら干物女の一面も使って、瀬尾さんにアプローチするかもしれないですよ?」
と、謎のけしかけまでしてしまったくらいに、この2人のヘタレさは規格外だった。
運営委員会のミーティングが定期的に設けられる中で、社員への発信方法としてリーフレットを発行して配布するのはどうか、と案が上がって。
打ち合わせに参加していた私と同様に、プロジェクトと委員会を掛け持ちをしている先輩が
「…というか俺らからしたら、オフィスリニューアルするまでの苦労もまじで伝えたいけど。」
と軽く、何の気無しに告げた言葉に、会議内容をまとめていた私はその手が止まった。
『しんどい時も、まあしょうがないから行ってやるかって妥協する理由にもなってしまうくらいに、素敵なオフィスにします!』
いつだって全速力のあの人の顔と、不思議な宣言が思い浮かんだ次の瞬間。
「コンペの時からの、リニューアル請け負ってくださってる○○さんとのエピソードも発信しませんか。」
淡々と、的確に正確に。
いつも膨大な量の仕事をそんな風に捌くことを最優先してきた私自身が、委員会のメンバーへ自らそう提案したことに1番驚いていた。
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「……え?リーフレットをですか?」
「はい。初回の発行分で弊社の紹介もしていただけるなんて、大変光栄です。ありがとうございます。
他の取引先様でもお話ができるきっかけにもなります。是非、お貸しいただけないでしょうか。」
リニューアルの着工がいよいよ始まる、そんな佳境を迎えた頃、瀬尾さんの方からアポイントの依頼が来て打ち合わせをすることになった。
アドバイザーとしての共有事項が終わった後、お願いしたいことがあります、と告げた瀬尾さんは私に頭を下げた。
「瀬尾さん。」
「はい。」
「このリーフレットは、役に立ちますか?」
「…え?」
「"あの人"の、役に立つものですよね。」
「……凄いですね。」
降参だ、と言わんばかりに眉を下げた彼に私は笑う。
急に必死にそんなお願いしてくるなんて、絶対何かあの人が関与しているって、そんなの誰でも分かる。
「…だからじゃ無いですけど。
元々枡川リーダーのことも、取り上げる予定でした。
急に言われて納期も当然早まりましたけど、頑張ります。」
今日瀬尾さんと一緒に来社した彼女は、着工前の最終確認だとメジャーを持ってオフィスのあらゆるところの寸法を測っている最中だろう。
必死過ぎる後ろ姿を思い浮かべて、少しだけ笑えた。
「…ごめん、ありがとう。」
「こんなこっそりサポートだけやってても、あの鈍感な人との恋は実らないと思いますけど。
どんだけヘタレなんですか。」
そうと決まれば、早くリーフレットの最終校正に入らなければ、とパソコンを眺めつつ呟くと
「保城さん、言うね。」
気怠い彼は、困ったような顔でそう言って苦笑いを溢した。