アンチテーゼを振りかざせ

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「……保城さん?」

「…え?」

「大丈夫ですか?ボーッとされてましたけど。」

「嗚呼、ごめんなさい。大丈夫です。」


そして、私はあの時瀬尾さんに連れられた居酒屋で、枡川さんと向かい合って座っている。



お手洗いに行ってきます、と席を立った顔の赤い枡川さんの背中を見送った後、たこわさを一口食べた。



結果的に、私達が用意したリーフレットは枡川さんの営業活動にとても役に立ったらしい。

その後、お礼をさせてくださいと律儀に彼女からメールが来て。

仮にも私の失恋の原因でしかない、そんな相手とお酒を酌み交わしている私は、一体何なんだろう。




「…偽善者、なのかな。」



ポツリと、賑やかな店内の中で誰にも聞こえないくらいの大きさでそう呟いた瞬間、




「生ビールです。」

「っ、」

急に視界を占領してきた黄色い物体に、身体をびくつかせた。


驚きと共に顔を上げると、美味しそうなビールジョッキをこちらへ差し出しつつ、座っている私を見下ろす三白眼と視線が絡む。

黒シャツを着て、日本酒の銘柄がデカデカと書かれた腰巻きをしている男は、金色とかでは無くもはや白色に近いアッシュの髪が店内の古びた照明に照らされていた。

なんか、今まで関わったことの無い人種な気がする。



「…ありがとうございます。」

持ち手をこちらへ向けて差し出されたジョッキを早々に受け取ろうとすると、何故だか向こうもそれを握る力を込めた。

自ずと、2人してビールを掴む状態になる。


「え、」


なに。

不思議に思い、再び視線を向けると、やはり三白眼は私をあっさり捉えていて。




「_____清楚つくりこむの、やめたの?」

「………は?」



その状態で、予想もしていなかった投げかけをされ固まったまま間抜けな声で聞き返してしまった。

触れるビールジョッキが、指先の熱だけを奪っていく。


「"今日は"、カルピスサワーじゃ無いんだ?」

「え……」


何を言われてるのか分からない状態で、言葉を発せず動けない私を見て、片方だけ不穏に口角を上げて笑う、顔のパーツの彫りが深い男。



何、この人。








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