アンチテーゼを振りかざせ





「…知り合い…では無いんですよね?」


男の不可解な言動に眉を潜め、その後ろ姿がホールから消えていくのを見守っていると、目の前の枡川さんにそう尋ねられた。


「全然。知らないです。

枡川さんは、よくご存知なんですか?」


「そうですね。
割とシフト入ってるみたいで、会うとよく話します。人懐っこいですよね。」


頷きつつそう笑う彼女は、真っ赤な顔のままにハイボールをぐいっとそこは男勝りに仰ぐ。


あんなよく分からない店員にも好かれてるのか。


気怠い彼への同情から複雑な顔で見つめれば、ん?と不思議な顔でおかわりした塩辛を食べる彼女。


「瀬尾さんの苦労がなんとなく見えました。」

「へ?」

「何でも無いです。恋が実って盲目な枡川さんには分からない話です。」

「、」


私も変わらずたこわさを摘みながら平然と告げると、ぴたっと動作を止めて彼女は強張った表情をしていた。


漸く、

枡川さんと瀬尾さん。

このヘタレな2人の恋は、成就した。

仕事をしている上で勿論そんな報告は無いけれど、そのくらい、空気感でなんとなく分かる。



「…保城さん、あの、」

「枡川さん。
私、燻製のポテトサラダも食べて良いですか?」

「!?最高ですね、いきましょう…!!」


彼女が何か言いかけたのを遮るように要望を伝えれば、意気揚々とすぐに店員さんへ声をかけていた。


そして、枡川さんが注文をしてくれている間、私の心には暗い影が、静かに、だけど確かに落ちているのを感じた。


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